株式会社GCAP

Gordius Consulting & Partners Inc.

Industries

製造業

創業5年の受注型製造業A社

A社は創業5年の家庭紙(トイレットペーパー等)の穴・異物の不良部位画像検査機の設計・製造・保守を行う社員数7名(社長含む)の製造業である。
創業以前の4年間は設計に特化した会社であったが、大手製紙会社等の依頼もあり、製造・保守まで一貫して行う製造業として、地方都市の工業団地に株式会社を立ち上げた。
社長は地元大手製造業のエンジニアの出身であり、他従業員6名も社長の熱意の基に集結した人材である。
私に、経営相談の依頼が来たのは、地元信用金庫からである。
ここ2年の経営状況が、2期連続赤字で債務超過に陥ったためである。

引渡しまでの流れは
・システム構想・提案
・見積書作成
・設計(メカ設計、電気設計、ソフト設計)
・製造(穴あけ加工、配線)
・立上・設置・操作・検査(現地組立、デバック、設置、捜査、検査、引渡し)
である。
特徴は自社1Fに工場スペース(約10坪)はあるが、製造における穴あけ加工は外注であり、配線を自社工場で行うため、有形固定資産である工具器具備品は500千円程度と設備投資に多額の資金を要していないというファブレスに近い形態であるということである。
よって、長期借入金もほとんどない状態である。

製造業やホテルなど装置産業といわれる業界では、創業時から多額の長期借入金を有しており、経営が軌道に乗るまで数年の期間を要する。
だから、損益計算書の支払い利息が最終税引き前利益を圧迫し、営業キャシュフローも少なく借入の元本返済ができなくなることが多いのが現状である。
A社の特徴は、設計部門に強みがあることと、ファブレスに近い経営形態であることである。
一方、受注型の装置生産であり、しかも、大手製紙工場等を取引先とするために、安定的な受注件数の確保が困難であり、かつ、価格圧力がかかりやすく、ここ2年間は赤字決算となり、貸借対照表の純資産がマイナスとなる債務超過に陥ったのである。

追い打ちをかけたのが、A社の得意とする300万~500万の装置ではなく、2.000万超の受注案件で積算段階での数量拾いモレや、最終外注加工費が高く、赤字案件がでたことである。
現預金の減少は、役員短期借入金で賄い、資金繰りは急場を凌いでいるものの、赤字決算と債務超過が資金繰りを圧迫している状況である。
今後の対策としては、50万からの少額案件から得意な分野で利益の出る300万~500万の案件の受注に力を入れることである。そうすることで、固定費を吸収してなお余る粗利を確保し、最終税引き前利益を10%前後に引き上げることができる。

社長とは3回程面談したが、初回から最終の3回目まで、毎回
・自社のいくつかの経営課題を抽出
・それに対する実施項目列挙
・A社での担当者と問題 等
自筆で書きだしていただいており、社長の再生のかける熱意と覚悟を感じることができた。中小企業の再生における決め手は、社長の覚悟とそれに対する社員の賛同・行動である。後は、施策立案とアクションプランを経営数字とリンクさせるだけである。
管理部門(1名)以外は、営業2名、製造(設計・開発兼務)4名、社長1名の布陣である。
営業・製造・社長全員が、営業や製造も行えるマルチタスクの多能工化集団であり、管理部門も営業のバックアップをする全員営業の士気や体制ができている。
これは、社長の思いに賛同する社員が一致団結していることを意味している。
社長は「好奇心旺盛」「勉強好き」「前向きなプラス発想」であり、「家族的な社風や環境」ができている。
社内では、仲間を大切にする「安心の場」、決して安易な人員削減はしないと決めている「安全の場」、肯定的発言が多い「ポジティブな場」の環境ができている。
見積数(引合い数×見積率)×成約率×客単価(利益のとれる単価)の売上方程式では、現状では成約率が30%程度である。

  1.  引合い数、見積率、成約率の向上と利益のとれる客単価の確保が課題である。
  2.  既存の取引先へのアフターが十分でない点から、アフターサービスを定期点検時の商談、TEL、ハガキ、ニュースレターで、修繕や次期受注につなげていく。
  3.  自社の特徴や実績、お客様の声を記したA4版1枚チラシで、紹介依頼や新規開拓につなげる。
  4.  月1回の会議では、予実管理(売上と利益)をPDCAを回す仕組み(数字未達の場合は未達原因、次月以降のリカバリーの打ち手等)にしていくことで、考えて行動する集団になり、業績向上につなげる。自社・業界・競合情報を共有する場とする。
  5.  社長の思いや考え方を機会あるごとに社員に伝え、社員も社長への報連相を行う。

先月、お伺いした時、一歩一歩ずつではあるが、社員の意識や行動が前向きになり、売上と同時に利益(安易な値引きがいかに利益を圧迫するかを理解)を重視した受注が着実に増えていることを、社長からお聞きした。
社長の前向きな姿勢と社員を思う心と、それに応えて自ら成長しようとする社員が一丸となることが中小企業再生の鍵であることを、改めて認識させていただいた。